おざわやの代表のブログです
2024.05.07
昨今、テレビドラマよりもネット配信のドラマの方が自由に演出できるからか、多くの話題作が作られています。特にNetflixはドキュメンタリーや映画はもちろんですが、ドラマでも最近では相撲界の裏側を描いた『サンクチュアリ〜聖域』が人気となったり、『ストレンジャーシングス』『梨泰院クラス』『イカゲーム』など世間でも人気ぶりが窺えるほどの作品もありました。
今回テレビでスポットCMが流され、Disney+などで2月に配信が始まった『SHOGUN〜将軍』
そんなスポットでは中身にはほとんど触れられず、真田広之さんの甲冑姿以外は得体の知れない中身がどうなのか?と思わせた全10話のドラマでしたが、てっきり尾張三英傑などの戦国武将のドラマかと思っていました。でもまず一回目を見てみると戦国武将の名は一切出てこなくて、しかも何となく外国目線の話であることも感じて「なんだハリウッド作品のフィクションか…」とガッカリ。
原作(1975年)はイギリス人のジェームズ・クラベルによるもの
そんな中、唯一歴史上の人物としてイギリス人航海士ながら、外交顧問として徳川家康に仕えた三浦按針(みうらあんじん:ジョン・ブラックソーン)が出てきた事から、「じゃあこれ(吉井虎長)が家康役で、こっち(石堂和成)が石田三成?」と想像されていきます。
そして何より興味を引いたのは、当時の幕府に入り込んでいたポルトガルの宣教師たちの役割が、スペインと世界を按分した日本を実質統治するために居ること。そして日本までの航海の中でスペイン人やポルトガル人に散々な目に遭わされてきたブラックソーンが、そんな統治を許してはいけないと虎長に伝えたことで、彼自身も日本をイングランドの影響下に置こうとしていたこと。
謁見の場で家康に説明する按針(ウィリアム)〜Wikipediaより
こんな風にグローバル目線での戦国絵巻を見るのも意外と面白いかも?と見始めました。
そもそもの原作はイギリス人作家のジェームズ・クラベルが1975年に書いた小説で、彼自身が第二次世界大戦中に従軍したマレー半島で日本軍に抑留され、その時の経験も踏まえた上で書かれた戦国小説。そんな作者の偏見や差別的な表現が多く見られる原作は、世界中でエキゾチックな東洋文化を知るためのバイブルとまで言われていたそう。
あくまで偏見や差別がかなりぶっ込まれてはいたようですが…
そんな小説を元に書かれた始めの脚本は製作開始から2年後に一からやり直され、新たな脚本家やライターに日系人なども加わって6年という時間を掛けて作られたそうです。そして小説では三浦按針:ブラックソーン(史実ではウィリアム・アダムズ(1564〜1620))の目線で進んでいくだけのストーリーが、今回のドラマではストーリーテラーとしての按針が見た戦国の世として脚色し直されました。
でもそんな流れを途中まで悟らせず、最終話のラストで気づかせるなんて本当にニクい演出です。
按針役のコスモ・ジャービスの脇を固めるのは虎長役の真田広之や浅野忠信ら実力派
そして虎長と按針以外の役柄がストーリーの流れからどんどん切腹していく事も、今や文化的にまったく理解できない我々にもサムライの美学を強く感じさせるもの。それは将の思惑を敵に悟らせないどころか味方にさえ気づかせないうちに遂行するためだったり、親の恨みを晴らすための自殺行為だったりと、「いつか死すべき命なら名誉の死を」という戦国の世の死生観さえも納得させられてしまうようです。
それまでは按針とのロマンスが本筋?と思わせるほどな通訳の戸田鞠子(史実では細川ガラシャ)を脇に、我こそがこの策略の主役という存在感を最後に見せる虎長。その役の真田広之さんが「日本人が見て納得できるものに」という思いで、制作から加わってくれたお陰ではないかと思われます。そして何よりハリウッド作品が日本語で制作されるのも初めてのことさそうで、台本の中の台詞一つひとつの言葉使いにも多くのアドバイスをしたとか。
狡猾な虎長が目指すのは己の功名心ではなく、あくまで戦いなき世の実現
そんな風に真田さんが「歴史の再現ではなくエンターテインメントでなければ」と目指したというこのストーリーは、もはやエンターテインメントの枠を通り越して、歴史サスペンスにさえ仕上がっているようでお見事。
こうして出来上がった日米英合作とも言える『SHOGUN』は、今後その原作になり変わって日本の美学や文化を語るものとして、のちに残っていく映像作品なのではないかと感じました。
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