【傷ついた2人の心を癒したのはサッカー愛だった：映画『ウィル〜夢を叶える旅』鑑賞記』

失った過去を取り戻すために旅に出た少年ウィルと過去から逃げてきたアレクが、最後にたどり着いたのは《サッカー愛》に包まれたスタジアムだった。

　日本にもサッカーファンは数多くいると思いますが、サッカー発祥の地イギリスは当然ながら熱狂的なファンばかり。そんなサッカー好きがサッカー好きのためにつくったと言っても過言じゃない映画『ウィル〜夢をかなえる旅』を観ましたが、もー最後は大号泣！やっぱり何かに一途なヒトたちはその分、同じ想いの仲間には家族のように愛を感じてしまうものなのでしょうか。

【あらすじ】

　寄宿舎から学校に通うウィルは、数年前に亡くなった母とそれ以来心を閉ざして海外に働きに行ってしまった父ギャレスへの想いに焦がれる日々を過ごしています。ある日突然帰ってきたギャレスが「一緒に行こう」とヨーロッパチャンピオンズリーグ決勝のチケットをウィルに手渡します。それはサッカー好きなら誰もが欲しがるプレミアチケットで、リバプールファンの父からずっと聴かされていた夢の舞台。それまでの3年間のわだかまりをすっかり忘れて、楽しみにしていた決勝が行われるトルコのイスタンブールへの旅でしたが、その直前にギャレットは急死してしまいます。悲しみに打ちひしがれたウィルは寄宿舎のシスターに取り上げられていたチケットを同級生たちと奪い返し、たった1人で父との約束の地へ旅立ちます。

　2011年イギリスで制作されたこの作品は日本では未公開。見ず知らずの少年が旅する間に出会う人たちはみーんなサッカー愛に溢れた人達ばかりですが、偶然出会って一緒に旅することになるアレクは初め無愛想。でも困っているウィルを放って置けず、隣人が貸してくれたシトロエンの名車で一緒にトルコへ向かいます。

【ここから多少ネタバレありの感想】

　ウィルは出会う大人たちを驚かせるほどサッカーの、特にリヴァプールの歴史に詳しく、選手やチームの戦跡などなんでも答えられるほど。それはきっと小さな頃から父ギャレスから1986年の決勝戦の思い出を聴かされてきたこと、そして1人残された寄宿舎でリヴァプールに関する本を読み漁り、いつか帰ってくる父とまたサッカーについて語り合える日々を心待ちにしていたからではないでしょうか。そんな知識を披露しながら旅を続けるうち、テレビまでが「リヴァプールの１番のファン」として放送したことから、警察にも追われていきます。

　市場への配達の途中にたまたま街で出会ったアレクはトルコへの同行をウィルに頼まれますが、訳ありそうな様子で初め気乗りしません。でも亡くなった父親との約束を果たしたいというウィルの意思の固さに心うたれ、アレクが心許す数少ない友人からの薦めもあって、2人で旅に出ます。彼も何か心に問題を抱えている様子でしたが、旅の途中でアレク自身もプロサッカー選手だったことなど明かしていきます。そして彼らのために大事にしていた真っ赤なオープンカーを貸した友人はフランス人であろうことが、その車が50年ほど前のシトロエンの名車ということから想像できます。もちろんチャンピオンズリーグにはフランスのチームも出ることから、彼もサッカー好きなのでしょうね。

　そんな中、ウィルはテレビや新聞の報道によって、サッカー好きたちに大きく知られることになります。旅の途中で出会うサッカーファンたちはウィル熱狂的に歓迎し、その後に警察に取り調べを受けても誰も彼のことを喋ろうとはしません。そして警察官も聞いてはみるけれど諦めている様子から、彼ら自身もサッカーファンでウィルを応援したい気持ちがあるんじゃないかって気がします。そしてそんなサッカーファンの想いが爆発するのは決勝が行われるスタジアムに2人が着いた時。なんとかウィルのためにチケットを手に入れようとするアレクを見て、皆がカンパをして高額のプレミアチケットをウィルにプレゼントします。

　そしてアレクが一緒じゃないと嫌だと言うウィルに、今度はフェンスの向こうから往年の有名選手であるケニー・ダルグリッシュ（本人出演）が首に掛けた自分のパスをウィルに渡して、関係者ゲートから入ってくるよう呼びかけます。このケニー選手こそが、亡き父がいつも語りかけてくれていた思い出のシュートを決めた選手。そして選手入場に同行するように入場ゲートへウィルを連れていきます。そこに並ぶのは憧れのスティーブン・ジェラード選手（本人）やジェイミー・キャラガー選手（本人）。

そしてその更に先に待っていたのは・・・。もうここは大号泣のファンタジー的なラストですね。笑

　とにかく往年の名選手たちやファンも含めて撮影を全面的にバックアップされての今作品はサッカー愛、そしてリヴァプール愛が溢れ過ぎていて、ヨーロッパの人々にとってのサッカーが文化として如何に大きな存在なのかが垣間見える、素敵な作品でした。

とにかく父ギャレスが息子ウィルに残したメッセージが胸に響きます。

いいか？恐怖に夢を邪魔させるな

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