》F1なのに遅く走るという勝ち方もあったとは！

昨夜終わったシンガポールグランプリは、完璧にレースをコントロールしたサインツ選手とフェラーリチームが久々優勝して、こんな作戦勝ちもあるんだと驚いたというブログです。

昨晩行われた2023年のF1世界選手権第16戦シンガポールグランプリでは今年負けなしのレッドブルチームが初めて予選途中敗退し、決勝も第５戦のマイアミGPから10戦連続優勝という記録を作っていたフェルスタッペン選手を制して、フェラーリチームのカルロス・サインツ選手がフェラーリチームとしても久々の優勝を勝ち取りました。

フェラーリチームは昨年のレギュレーション改正以来、ストレートスピードも速くて開幕戦でルクレールが優勝。第10戦でもサインツが優勝して、久しぶりにコンストラクターズチャンピオンを獲ることも可能かも？なんて思わせましたが、予選では上位なのにレースでの競り合いになるとタイヤの劣化が激しくてその後は勝てず。全チームがまったく同じタイヤを使いながら空力特性次第でポテンシャルを発揮したり、その逆にあれほどまでダメだったりするのって、歴史のあるチームでもセッティングを含めたマシン作りって本当に難しいんだと感じます。

後続を引き離さないことで生まれた余裕を活かしたサインツ

対して昨季途中から絶好調でほぼ負けなしのレッドブルチームは、フェルスタッペン選手専用とも言われるほど乗り味や特性を彼のドライビングに合わせた車作り。これまでも予選では中盤に落ち込んだとしても、レースでのペースの速さからいつもトップを奪い取ってきました。ところが今回は練習走行当初からグリップ不足などに悩まされ、さらに予選間際のチェンジが大外れ。結局3回目の予選にも進めずに11位と15位というグリッドからのスタートになってしまい、決勝でも振るうことなくフェルスタッペン選手の5位入賞が精一杯。

対するフェラーリチームは相変わらず予選では速くてサインツがポールポジションで2位はメルセデスのラッセル選手、3位に同じくフェラーリのルクレール選手でスタートからサインツを勝たせるための露骨なほどのチーム戦略を見せていました。トップに立ったサインツ選手の後ろにルクレール選手がついて、全体のペースが上がらないようにタイムを落として、3位以下とサインツ選手との距離を3秒にキープ。これによってフェラーリチームの弱みであるタイヤを痛めないようにレース全体を見事にコントロール。抜きどころの少ないコースなりに1位から11位くらいまでがほぼ同じようなペースで走り続けるという、あまり見ることのできないスローペースを演出していたのは、間違いなくフェラーリチームの策でした。

先頭は後翼に「FERRALI」と読めますが、後ろの二台は穴が空いているように見えるのがDRS

途中他チームのマシントラブルからイエローフラッグが出たりタイヤ交換のタイミングなどでルクレールは遅れ、2位に上がったマクラーレンのランド・ノリス選手が数秒後ろ。そこへ起死回生をかけたタイヤ交換から段違いのスピードで追い上げてきたメルセデスの二人が近づいてくると、チームオーダーに従わず、なぜかペースを落としてノリス選手に追い付かせようとするサインツ。

普通なら「レースならスピード上げて逃げればいいのに！」って思いますよね？

これにはこのシンガポールGPが行われるコースには抜くポイントが少ないことと、現在F1マシンに搭載される【DRS】という競り合いの際に空気抵抗を減らして追い抜き易くする機能が絡んでいます。この機能を使える条件は設定されたDRS区間内であることと前車との差が１秒以内であることで、後ろから猛追してくるメルセデス２台はタイヤもフレッシュだし、サインツとしては残り周回数を考えるとノリスを簡単に抜いてもらっちゃ困ります。そこで敢えてペースを落とすことでノリスを１秒以内に追いつかせ、彼にDRSを使わせることでメルセデスの２台を追いつかせないようにするという、なんとも老獪な戦略をサインツは実行していたのでした。

作戦通りに１年２ヶ月ぶりの優勝を奪って、喜びを爆発させるサインツとチームスタッフたち

その結果、残り数周はトップのサインツから4位のハミルトンまでが４秒と離れていない団子状態に。

そして終始「勝ちたいんだ！」とチーム無線で訴え続けていた3位のラッセルが最終ラップに焦ったのか、右フロントタイヤを壁に引っ掛けてクラッシュ。こうしてサインツはまったく危なげなく、シンガポールGPをポールトゥウィンで優勝してしまったのでした。通常F1といえば最新技術や超人的なテクニックを使って、他人より速く走ることだけが強さのように思えてしまいますが、「遅く走る」という戦い方もあるんだと驚いてしまいました。

でも見ていて始終ドキドキしたし、来週の日本グランプリにはフェルスタッペン選手も復調して、どんな競り合いを見せてくれるのか更に楽しみになりました。

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