》ネアンデルタール人の最新研究は何を伝えるのか？

イラクのシャニダール洞窟から見つかった埋葬されたネアンデルタール人の遺跡から、また新たな遺体が見つかったというニュースから考える、人類がたどってきた道はどこに向かうのか？というブログ。

人類として最も古い埋葬の歴史を語る遺跡として知られるイラク北部のシャニダール洞窟から、多くのネアンデルタール人の遺骨が発見されたのは1950〜1960年代にかけてのこと。９体発掘された遺骨のいくつかは屈葬（胎児のように膝を抱えた形での埋葬法）されていて、特にその中の「シャニダール４」と名付けられた遺骨の周りからは、矢車菊や立葵など薬効がある花の花粉が多く見つかったことから、これが《最も古いお墓参りの痕跡》ではないかとも言われています。（シャニダール４の遺骨は現在失われてしまっています）

ただこれについては最新の科学的見解ではネズミなどが運んだのでは？という説が有力になっていますが、まずはネアンデルタール人が家族を埋葬していたということや、そのうちの一体は寝たきり状態で介護されていた痕跡が見つかっていることなど、その暮らしぶりが我々現生人類と比べても遜色のない文化を持っていたことを伝えてくれています。

シャニダール洞窟とそこから見つかった人骨（スミソニアン博物館所蔵）

その後、洞窟内から発掘された動物の骨を調べていた研究者が、その中に人類の下半身部分が混ざっていることを見つけて「シャニダール10」と呼ばれましたが、2014年に再び始められた研究によってさらに「シャニダール４」の真下に埋められていた「シャニダールZ」が発掘されました。

それは多くの関節が繋がった状態で見つかっていましたが上半身だけしかなく、もしかすると下半身だけ見つかった「シャニダール10」の上半身では？とも考えられていますが、そこまで研究は進んでおらずその確証はまだありません。そしてその頭部の脇に印象的に置かれた石が、繰り返し埋葬された場所であることの目印と見られているのは、これまでにない発見です。

もしそうなら世界最古の墓石かも？なんて。

発掘作業が進む洞窟内と発見された「シャニダールZ」の胸部（画像：GRAEME BARKER）

【我々の中に生き残ったネアンデルタール人】

この絶滅した旧人類ネアンデルタール人の核DNAは、2010年にマックス・プランク進化人類学研究所のスバンテ・ペーボ教授のグループによって全ゲノムが解読されていて、現代の欧州系や我々アジア系の人は全ゲノムの２％ほどがネアンデルタール由来ということも分かってきました。さらにはロシアで見つかっている別の旧人類である、デニソワ人のゲノムも我々アジア系には同じく含まれているようで、その名の元になったデニソワ洞窟からはデニソワ人とネアンデルタール人の混血の少女の遺骨も発見されています。

そんな交雑から生まれた子孫からは肌や体色に関する遺伝子だけじゃなく、動脈硬化や新型コロナに関する要因もあれば子宮壁を厚くして流産しにくくする遺伝子も見つかっている代わりに、男性の睾丸に関する因子が見つかっていないことから生殖能力に問題があったことも想像されます。

シャニダールZの左手の指の骨と、埋葬された様子を描いた絵には印象的に置かれた石の存在も（イラスト：EMMA POMEROY）

ネアンデルタール人もデニソワ人も我々と同じくチンパンジーから別れた仲間ではありますが、3万年ほど前に絶滅してしまった種です。

でもこんな風に我々現代人にまで影響するほどの因子を旧人類は残してくれているし、何より埋葬して家族の死を悼むという文化はまったく変わらないもの。それからすれば彼らは考えてもいなかった「墓じまい」なんて風習は、40万年の時を超えて現生人類が退化させてしまった文化とも言えるのかもしれませんね。

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