》罪悪感は手放して生きるしかない：映画『87分の１の人生』鑑賞記

きっと誰しも身に覚えがあって起こり得るかも？と思えることにより、薔薇色に思えていた人生が一転してしまう。そんな不遇の時に自分なら？そして家族ならどう受け止めるべきかを考えさせられる作品の感想です

決して良くない事ですが車を運転される方ならば、一時停止違反とともに誰でも身に覚えがあるであろう携帯電話の保持違反。

最近は車にブルートゥース機能が付いている場合も多く、携帯電話が普及し始めた頃に比べれば違反切符を切られる機会も減ったと思います。でもその代わりに車載ナビではなくスマホの地図アプリのナビゲーションを使ったり、ちょっとした連絡にLINE電話など使う場合に思わずスマホを手に取ってしまったりってこともあるのではないでしょうか。

そんな携帯電話だけじゃなくても、自らの思いとは別に進んでしまう人生の落とし穴にはまり、周囲や家族に迷惑をかけてしまった時にどう対処するべきか？そして家族としてそんな事態をどう受け止めるべきかを、映画の中からケーススタディーとして得られるストーリー。名優モーガン・フリーマンの円熟の演技と、新進気鋭のフローレンス・ピューによるヒューマンドラマです。

《『87分の1の人生』のあらすじ》

最愛の人との結婚を直前に控えて幸せの最高潮の中にいたアリソン

ボーイフレンドの姉とも打ち解け、

きっと温かい人生がこれからも続いていくに違いないと確信していた

しかしその希望溢れる幸福な道のりだと思っていた場所で、

突如として最悪の悲劇を経験してしまい、目覚めると世界は変わっていた

そのショックを引きずり、一転した真っ暗な生活で

ボロボロになっていたアリソンに、ある出会いが訪れる

【誰の人生にも時折訪れる不遇の時をどう生きるか？】

この作品は初め、とても幸せそうで明るい未来しか見えないネイサンとアリソン（フローレンス・ピュー）の二人の姿に始まりますが、すぐにそんな生活が音を立てるようにガラガラと崩れていきます。ネイサンの姉夫婦を送ろうとしたアリソンが運転する車が事故に遭い、アリソンは生き残ったものの姉夫婦は死亡。その原因は道路脇の工事現場から出てきたショベルカーでしたが、その一瞬前にアリソンはスマホの画面に目を落としていたのでした。

姉夫婦には一人娘ライアンがおり、ちょうどネイサンの父親ダニエル（モーガン・フリーマン）が学校まで送って行ったところに電話が入ります。以前からネイサンとは折りが悪く、一切会話がなかったネイサンからの電話に表情を固くするダニエルでしたが、そこで知らされた二人の事故死の知らせに顔色が変わります。

人生には不遇の時があり、それをどう受け止めてやり過ごすか？

病院で目を覚ましたアリソンには何が起こったか分からず、病室に入ってきた警官の一言から二人が死んでしまったことを知り、やがてうつ病を発症してネイサンとは別れてしまいます。そこからアリソンは鎮痛剤中毒に陥ってまともな生活は成り立たず、鎮痛剤を求めて旧友を脅すなど繰り返すうち「これではダメだ」と気づき、中毒患者が集まる自助グループに行ってみます。

ところがそこにいたのはダニエル。

彼自身もアルコール依存により暴力的になってしまう過去を持っており、ネイサンの片耳が聞こえないのは彼の暴力のせいなのでした。アリソンはもちろん事故に対する罪悪感を、そしてダニエルは酒に溺れてネイサンを傷つけてしまったことへの罪悪感からそれぞれの依存が始まっていることが分かり、グループを通した二人の交流が始まります。

ダニエルの作る87分の1の鉄道模型には、彼の見たかった人生が詰まっていました

【ヒトは誰しも罪悪感を抱えて生きている】

この作品の現代は『A GOOD PERSON』。

きっとそれは誰もがそもそもは善き人であり、誰もが道を踏み外した時に陥る闇があるけど、誰にでも絶対に救いはある筈という意味なのではないでしょうか。例えばそんな二人だけじゃなくアリソンの母親は無学で、アリソンにあるべき教養を身に付けさせてあげられなかったという罪悪感があり、薬物中毒に苦しむアリソンに薬を渡してしまったり。ネイサンだってアリソンが事故の痛みと罪悪感に苦しんで離れたことを支えられず、別の彼女を作ったことも罪悪感だし、自らを傷つけた父親を許せなかった罪悪感もあるでしょう。

きっと生きていれば誰でも何らかの罪悪感を抱えていると思います。そんな罪悪感に苛まれたまま生きるのか、それとも自分や他人をも赦して生きられるのかを描いているのが当作だと思います。こんなことに巻き込まれるなんて嫌だけど、あらかじめこうして映画の中で体験することでもし不遇の時が訪れても、皆んな「善き人」であると信じて赦すことが出来るんじゃないかと感じました。

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