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》観ても苦しくて堪らない映画:『潜水艦クルスクの生存者たち』鑑賞記

2023.09.02

これほどの被害を出した実際の事故を描き出したこの作品は、観ていても苦しいばかりだけど、愚かな戦争にもつながる現実を知るためにも大切じゃないか、というブログ。



最近お会いした何人かから「時間がある時にブログの映画紹介で見る作品選ばせてもらってます」と、嬉しい感想をいただきました。このブログに紹介させていただく作品は、自分なりに見て楽しくなれるとか感動できる作品を選ぶことが多いですが、たまにはその時代背景も含めて映画の見方そのものを「こういう観点で見ると面白いですよ!」と紹介している場合もあります。



今回紹介する作品はちっとも楽しい気分になれないし、何なら息が詰まってしまうくらいに感じるストーリーで、またこれが実際に起こった事故が元になっていると聞いて更に苦しくなる。以前見た『戦場のピアニスト』や『西部戦線異常なし』もそうでしたが、途中で見ているのが辛くなってしまうのは、きっとそんな辛い事実が本当に起こっていたということへの、苦しくなるほどの悲しみじゃないかと感じます。




戦争の真実を描いた映画は今の世界を知るためにも見るべき




《『潜水艦クルスクの生存者たち』のあらすじ》



乗艦員118名を乗せた原子力潜水艦クルスクは軍事演習のため出航するのだが、

艦内の魚雷が突然暴発、凄まじい炎が艦内を駆け巡る。


次々と命を落とす惨状に直面したミハイルは、爆発が起きた区画の封鎖を指示し、

部下と安全な艦尾へ退避を始めるが、艦体は北極海の海底まで沈没し、

わずか23名だけが生き残った。


海中の異変を察知した英国の海軍准将デイビッドは救援を表明するが、

ロシア政府は沈没事故の原因は他国船との衝突にあると主張し、

軍事機密であるクルスクには近寄らせようとしない。


乗組員の命よりも国家の威信を優先する政府の態度に、

ターニャたち家族は怒りを露わに抗議する。


酸素が徐々に尽きていく中、果たして愛する家族のもとへ帰る事はできるのだろうか──







【2000年にロシアで実際に起こった潜水艦事故の真実】

この作品は戦争映画ではなく、どちらかといえば単なる人災によって起こった事故であり、これが現代だとは思えないほど愚かな威信やプライドから見殺しにされてしまった搭乗員たちを描いたストーリー。実際に起こった事故なのでネタバレしてしまいますが、誰一人助けられなかった艦内で起こっていたことを、その後の調査に基づいて詳細に検証されたストーリーをロシア以外の国によって映画化されています。



この事故はロシア海軍によって行われた大規模な演習の中で起こった、最新かつ最大の原子力潜水艦内で一発の模擬魚雷が爆発してしまったことに始まったものです。その後艦内に装備されていた他の魚雷にも誘爆して、大破。その爆発は遠くアラスカの地震計にも記録されていたほどだったそうで、事故を感知したアメリカ・イギリス・ノルウェーの各海軍が救助を申し出たものの、他国の船舶との衝突が原因とするロシアが拒否。




最後まで生き残っていた一人、ミハイル大尉の視点で描かれるストーリー




冒頭で潜水艦乗組員たちが北部ムルマンスク港に家族と共に住む様子から物語が始まり、そこでは給料が未払いになっていたこともストーリー中に描かれますが、これはどうやら当時に実際にあったこと。ちょうどその頃はエリツィンからプーチン大統領に代わったばかりの時期で、実際に潜水艦の整備費や救難捜索部隊などの資金難という問題もあったようです。そんなところに起こったこの事故に向かったロシア海軍による救難は、その整備不足によって相次いで失敗してしまいます。


物語の中ではイギリス海軍の救難部隊も待機していて、ロシアの救援依頼を待っていたものの救助には間に合わず。もちろん最新鋭の潜水艦ということで軍事機密もあったのでしょうが、どこまでいっても人命優先ではない国なのだということが分かります。そして必要以上に刺激しないよう配慮したのか?プーチン大統領は作品中にはまったく描かれていません笑。




【映画から透けて見える現代ロシア】

そして映画の中には描かれていませんが、この時プーチン大統領が保養地ソチで休養中だったことや、心配する船員家族たちの様子を重ねるようにロシアの大手テレビ局が24時間放映していたそうです。こんな自由な報道は今では考えられませんが、それを主導していたのはそもそもプーチンを大統領に推したロシアの新興財閥オリガルヒの筆頭だったテレビ局の代表たち。エリツィン政権をそのまま引き継ぐと見ていたプーチンが現代にもつながる独自路線に豹変したことを受けて、事故以前からプーチン政権を揺さぶるような報道を仕掛けていたようです。


結局そんな報道をしたテレビ局は政府系の企業ガスプロムに買収されて、当時の経営者たちは海外に逃亡したというから、最近のウクライナ侵攻に至るまで何も代わっていないことも分かりますよね。その後テレビ局は政府の支配下に置かれ、ロシア国民へのプロパガンダを強めていった始まりになったのがこの事件、とも言われているそうです。




我慢できなくなったロシア人アナウンサーまでウクライナ侵攻反対を訴えて亡命しましたよね




先に紹介した『戦場のピアニスト』で、ドイツ軍によるホロコーストを逃げ抜いた姿を描かれたユダヤ系ポーランド人ピアニストのウワディスワフ・シュピルマンさんが、同じくこの2000年に死去されているのも何だか時代の変わり目を感じさせますね。





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