》伝統を引き継ぐ重さや想いをつなぐ重さ：映画『ブラックパンサー/ワカンダフォーエバー』鑑賞記

「ブラックパンサーの顔」と言ってもいいくらいだった、前作主演のチャドウィック・ボーズマンを失って続編はどう繋げるのかと心配していたストーリーが、想像以上のドラマを用意してくれてたという感激を伝えるブログ。

ブラックパンサーはMCU（マーベル・シネマティック・ユニバース）と呼ばれる映画シリーズの１作。その中でもフェーズ３と呼ばれるシリーズの中で登場したのがブラックパンサー。初めは単体の作品ではなく、アベンジャーズが分裂している間に国連の会議に出ていたワカンダ国王ティ・チャカがテロに巻き込まれて死亡。その犯人を追う黒い影こそが、その息子のティ・チャカ（チャドウィック）＝ブラックパンサーでした。そのしなやかな動きや強さで人気を集めて長編映画となった『ブラックパンサー（2018年）』は、それまでの北米での記録を持っていた『アベンジャーズ』を抜いて、ヒーロー映画として史上最高の興行収入を叩き出しました。

ところがその後、チャドウィック・ボーズマン本人が大腸癌に犯されていると報じられ、その治療を続けながら出演した作品『21ブリッジ』や『マ・レイニーのブラックボトム』では次第に痩せていく姿のままに演じられ、結局彼は2020年に自宅で家族に看取られて永眠しました。

【努力するのも才能なんだと教えてくれる：『チャドウィック・ボーズマン〜あるひとりの表現者』鑑賞記】

そこで話題になったのはやはり、あれほどのヒットを飛ばしたブラックパンサーの続編。とはいえチャドウィック・ボーズマンの影が余りに強すぎるし、その死をどう描くのかによってはファンの反感さえ買いかねません。何より次のブラックパンサーとして選ばれるのは誰で、どう選べば誰にも納得がいくのか？という点でも非常に難しかったと思います。そうして公開された予告にも一切それらの答えはなくて、楽しみ半分怖さ半分で迎えた2時間41分という超大作の公開でした。

【この作品のあらすじ】

ヒーロー映画として異例のアカデミー賞®３冠、作品賞も初ノミネートを果たして、全世界で社会現象となった「ブラックパンサー」の待望の続編。

国王とヒーロー、2 つの顔を持つティ・チャラを失ったワカンダ国に海の帝国の脅威が迫る。

ティ・チャラの妹であり天才科学者のシュリたちは、この危機にどう立ち向かうのか。そして、新たな希望となるブラックパンサーを受け継ぐ者は誰なのか…。

【ヴィヴラニウムを狙う大国の影と謎の民族の登場】

まず冒頭で国王ティ・チャカが病気に罹って瀕死の状態であることが描かれ、それを治すには前作『ブラックパンサー』で一度はティ・チャカを破ってワカンダ国王に就いたキルモンガーが焼いてしまった、「神秘のハーブ」を再生させる必要があった。それをDNAから再生させようと必死に研究する妹のシュリでしたが、その間にティ・チャラは息を引き取ってしまいます。すると絶対的な守護者の居なくなったワカンダには、世界中からそこでしか取れないヴィヴラニウムを狙ってさまざまな策略が迫り始めます。それと同じ頃、とある天才発明家がヴィブラニウム探知機を作り上げ、それによって深海深くに眠るヴィヴラニウムが発見されたものの、調べに行った探査船は行方不明。そして直後からその発明家を狙って、海の中から現れる謎の民族に発明家と一緒に連れ去られるシュリ。

そんなスタートで前作からの物語の引き継ぎを見事につなぎ、さらにはブラックパンサーが誰かというよりも変身するための「ハーブ」もないことからワカンダの危機に焦点が移る見事さ。そしてこのストーリーがシュリを中心に進んでいくことが明らかになりますが、シュリ自身はまだ若く、兄を失った悲しさと自らに対する無力感から抜けられません。そしてワカンダに敵対する海の民族ネイモアたちの正体から、環境問題や経済至上主義への危機感さえ描き出します。

そこで描かれているのはただのスーパーヒーローものではなく資源問題や国家間の経済的な思惑や、環境問題に民族同士の紛争など、現代社会が抱える大きな問題が形こそ違えどそのままに描かれます。でもこのストーリーに何より感じた大きなテーマは「喪失感からの再起」でした。

【それぞれの喪失感とそこからどう抜け出すかのストーリー】

ワカンダは絶対的な守護者であり王のブラックパンサーを立て続けに二人失い、それは女王ラモンダと娘のシュリにとっては大きな喪失感でした。ラモンダは女王として王のいないワカンダを守るために外交やヴィヴラニウムを守るための防衛に苦心、シュリは兄を救えなかった無力感に苛まれたまま。何より「神秘のハーブ」を失ったワカンダは、ヴィヴラニウムという絶対的な資源だけを世界中から狙われるばかり。

そんなところに現れた強大な力を持つネイモア率いる海の民族たちも、やはりその元にあるのは大きな喪失感。互いの喪失感はそれぞれ自分たちでしか立ち直れないけど、それを怒りに向けるのか？それとも許しに変えるのかで、その先の生き方までも選んでしまうことになります。そんなことは分かっていても、やはり自分の悲しみに飲み込まれてしまうシュリはどうやって向き合い立ち直っていくのか？という、壮大すぎるほどのヒューマンドラマは161分という超大作ながらあっという間に感じるほどです。

そしてエンドロールに流れるお約束のポストクレジット＆エンドクレジットは、嫌がおうにも新たな王国再起への道と続編への期待感をさらに高められてしまいます。そんなエンドロールで流れるのはこのリアーナの『Lift Me up』で、もうこのシンプルな歌詞の曲聴きながら涙腺崩壊です。

ホントこんな素晴らしい映画作る人たちって凄いなあって、心から尊敬してしまいます。

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